科学するTAMAGAWA 玉川大学のまったく新しい英語教育『ELFプログラム』
玉川大学では全学部生が、『ELFプログラム』という英語教育を受講します。
これは、ネイティブ/ノンネイティブに関係なく、
世界中の誰とでも意思疎通できる英語力を身につけるもの。
グローバル時代に求められる真のコミュニケーションスキルを獲得するための、
まったく新しい英語教育が始まっています。
ソフト・ハード両面での充実した環境
グローバル化が加速する現在、大学における英語教育の重要性は、さらに高まってきています。そうした社会のニーズに対応するべく、玉川大学ではまったく新しい英語教育『ELFプログラム』を、全学部生を対象に展開しています。
ELF(English as a Lingua Franca)とは、「共通の母語をもたない人同士が意思疎通するための英語」という意味で、いわゆる“ネイティブスピーカー”をめざすのではなく、誰とでも意思疎通できる“共通語としての英語”を身につけることが特長です。
2016年4月には、ELFプログラムの新たな学修拠点となる『ELF Study Hall 2015』の利用を開始し、ソフト・ハード面ともに充実した環境が整いました。
そこで、『ELFプログラム』で学ぶ意義や、『ELF Study Hall 2015』の特長について、ELFセンター長の小田眞幸教授にお話を聞きました。
ネイティブ/ノンネイティブの垣根を壊す
「1970〜80年代にかけて理想とされていた英語教育は、ネイティブスピーカーによる授業でした。特に一般にとっては、いわゆる“金髪・白人”の先生が、英語で英語を教えるのが良しとされていたわけです。私もその当時アメリカの大学院で学んでいましたが、『ネイティブスピーカーをめざしましょう』という風潮が強くありました」と小田教授は話します。
「ところがその後、欧米の言語学者の中からも『アメリカの標準英語とは何か?』という議論が出てきます。アメリカは移民の国ですから、さまざまな母語をもつ人々が暮らしています。例えば、スペイン語を母語とする人だけでも約300万人。そのような国における標準的な英語とは、何を指すのかということですね。
世界に目を向けると、日常的に英語を使用する人のうち、約8割がノンネイティブスピーカーです。その中で、最も多くの人が英語を使っている国はインドですが、インドに暮らす人が、例えばイギリスの英語を学ぶ必要があるかというと、それも疑問です。インドでの生活に英語は必要ですが、それがネイティブスピーカーの英語である必要はないからです。このように、ノンネイティブの英語を認めようという動きが起こってきたのが、1990〜2000年代でした」
玉川大学で展開する『ELFプログラム』は、そのさらに先をめざそうとするものだと小田教授は続けます。
「『ノンネイティブの英語を認める』ということは、逆にいえば、『ネイティブとノンネイティブを分けて考える』ということに他なりません。そうではなく、ネイティブ/ノンネイティブに関わらず、どんな場面であれ、どんな相手であれ、意思疎通を図ることができる英語を身につけさせたいというのが、『ELFプログラム』の考え方です。
そもそも言語を学ぶ意義とは、他者を理解し、世界平和に貢献することだと考えています。そういう視点に立てば、『中国の英語は発音がどう』とか、『インドの英語はアクセントが強い』とか『原稿は完成前に“ネイティブチェック”が必要』などという意識をもつこと自体が問題なのです」
バラエティ豊かな教員を採用
では、誰とでも意思疎通できる英語を身につけるためには、どうしたらいいのでしょうか。それを実現する手段の一つとして、玉川大学では、さまざまなバックグラウンドをもつ教員を採用していると小田教授は説明します。
「地理、民俗、年齢、性別など、多様で豊かな経験をもつ教員の指導を受けられるようにして、『いろいろな英語があってよい』ということを、学生に知ってもらいたいと考えています。したがって、採用基準ではネイティブかノンネイティブかは問いません。ただし、英語を母語としない学修者を対象とした英語教育に関する修士以上の学位をもっていること、そして、母語以外の言語の学修経験をもっていることを条件としています。これには、『外国語を学ぶ側の苦労や課題が理解できる』という利点があります。学生が『わからない』というとき、それは英語そのものがわからないのか、それとも日本語でもわからない内容なのか、判断がつきやすいわけです」
こうした採用基準を設けたことにより、現在では常時14の異なった母語をもつ、13~14国籍のマルチリンガルの教員が教鞭を執るようになっています。
「指導教員はセメスター毎にランダムに振り分けるため、学生は多くの教員と接することができます。また、個別に教員から指導を受けられるチューター制度を設けており、これを利用することで、授業を担当する教員以外とも交流することができます。この制度は非常に好評で、特に試験前には90%を超える稼働率となっています。
こうしてさまざまな英語のあり方に触れることで、誰とでも意思疎通のできる英語を、最終的には、自分が専門とする分野について議論できるレベルで身につけさせたいと考えています。
これは同時に、さまざまな文化に触れる機会にもなります。その経験は将来、文化の異なる人たちと一緒に仕事をすることになったとしても必ず役に立つはずです。自分の文化を押しつけるでも、相手の文化を無批判に受け入れるのでもなく、『どのようなことに注意して文化の異なる人と付き合っていけばいいか』に対する気づきを与えてくれるからです」
プログラムの内容に適応する学びの場
『ELFプログラム』の学びの場となるのが、『ELF Study Hall 2015』です。その環境には、プログラムの内容に合わせたさまざまな配慮がなされているそうです。
「専任教員の祐乗坊 由利 ジョディー助教が中心となって、教育に資するようなこだわりを随所にちりばめました。例えばイス一つとっても、左利きの人に対応していたり、閉所恐怖症の人でもなるべく圧迫感を感じない配色にするなど、可能な限りの多様性に対応しています。
教室は人数や授業内容によっていくつかのタイプが選べます。例えばCタイプと呼ばれる教室では、教卓が教室の中央にあり、その周りで学生が4つのグループに分かれて学修できるようにデザインされています。ディスプレイも4つ設置されていて、それぞれ別の映像を映すことが可能です。これは、学生が主体的にコミュニケーションできるように配慮しているからであり、教員はあくまでも学生を支える“伴走者”だと考えてのことです」
また、学生が自由に使えるELFラウンジには、外から見える東屋のようなガラス張りの空間が設置されています。学生が聞いても差支ない内容の打ち合わせは極力ここで行うことで、学生がその様子を見られるようにするとのことです。
「教材として使うテキストは何がいいとか、ビデオ教材はどう使ったらいいなど、教員同士のやりとりを、すべて学生の目に触れるようにします。私が他の先生とディスカッションしている風景も、ときには見せてしまうかもしれません。
しかし、それで良いのです。いろいろなアクセントの英語が飛び交っているのを聞き、また、日本人が英語で外国人と対等にやりとりする場面に接することで、自分のアクセントや、日本人が英語を話すことに対して、自信をもつきっかけになると考えています」
既存の英語教育と異なる『ELFプログラム』の特長
『ELFプログラム』の授業では、学生に英語を最大限使わせるような指導を行いますが、“日本語を禁止”しているわけではありません。
「日本語で一言アドバイスすればわかることを、何が何でも英語でやろうとするのはまったく効率的ではないからです。ラウンジ内での日本語を禁じる大学も多いですが、ELFラウンジは違います。むしろ、学生が積極的に英語を使うような環境を整えていきたい。あくまで、学生が主体的に学ぶことを主眼に置いているのです。
NHKの英語ニュースをビデオ教材として使っているのも、ネイティブ/ノンネイティブにこだわらない、ELFプログラムならではかもしれません。CNNなどアメリカのニュース番組が『わからない』という場合、それは英語がわからないというより、アメリカ文化がわからないことに起因する部分が大きいのです。NHKなら日本関連の話題が多く、その日のニュースを頭に入れておけば、だいたいの内容はわかりますので、英語の学修としては効率が良いわけです」
英語の4技能リーディング・ライティング・リスニング・スピーキングに対する考え方も、従来の英語教育とは異なるといいます。
「一般的には、『リーディングとライティング』を『読み書き』として、『リスニングとスピーキング』を『会話』としてセットで考えることが多くあります。しかし、本当にそうでしょうか。もともとこの4技能は評価をしやすくするために便宜上分けられたものであるという考え方もあります(Holliday 2005)。したがって、完全に切り離して考えるべきものではないのです。『ELFプログラム』では、『リーディングとリスニング』のレベルを少し高めに設定し、インプットのスキルを上げることで、『ライティングとスピーキング』というアウトプットのレベルも引き上げる手法を採っています。見たり聞いたりして理解できることを前提に、それをまとめて相手に伝える力を磨くというのは、学びの順序として理に適ったものだと考えています」
自信をもって外国語を学ぶ
『ELF Study Hall 2015』にある自習スペースの壁には、次のようなメッセージが掲げられています。
“Real proficiency is when you are able to take possession of the language, turn it to your advantage, and make it real for you.”
(本当の語学力とは、あなたがその言語を所有し、自分のために使って、それを自分にとって現実のものとすることである。)
「これは、著名な応用言語学者、ヘンリー・ウィドウソン(Henry G. Widdowson)氏の論文(The Ownership of English. TESOL Quarterly.28/2.P.384.)の一節です。実は数年前に、ウィドウソン氏を玉川大学に招き、まさにこの建物で講演をしていただいたこともあり、今回、『ELF Study Hall 2015』の完成に当たって、本人がこの言葉を選んでくれました。
『言語を所有』するというのは、『言語はネイティブスピーカーに借りるものではない』ということ。自分でコントロールし、自分の必要なときに使えるのが、本当の言語力だということですね。これは、外国語を学ぶすべての人に対する『自信をもちなさい』という力強いメッセージであり、『ELFプログラム』がめざす教育の本質を示す言葉だと思います」
関連リンク
- 玉川大学「ELFセンター」ホームページ
- 【2016年3月24日公開】英語を学ぶ"環境"にまでこだわった「ELF Study Hall 2015」
- 現場経験を通して学ぶことの大切さ。芸術学部の学生が、ELF Study Hall 2015の空間演出に携わりました
- 科学するTAMAGAWA 「国際教育」の理念に基づく英語教育で、真の国際人材を育成するELFプログラム
- 最新の英語教育「ELFプログラム」を展開する玉川大学。来春4月、「ELF STUDY HALL 2015」の利用を開始します
- ELFセンターの空間演出に芸術学部の学生が挑戦 センター長を招いてのプレゼンテーションが行われました
- 英語科教員養成フォーラムを開催しました