「落語の主役は、聞いている皆さん」。卒業生で落語家の古今亭駒治師匠によるリベラルアーツ学部対象学友会寄附講座が開催されました。
玉川大学・玉川学園の卒業生によって構成される学友会では、「学友会寄附講座」を企画・開催しています。11月22日(木)にはリベラルアーツ学部の1年生を対象に、落語家の古今亭駒治師匠をお招きして、「日本の話芸」をテーマにした寄附講座が行われました。
実は駒治師匠は玉川大学の卒業生。2003年に当時の文学部芸術学科を卒業し、古今亭志ん駒師匠に弟子入りし、古今亭駒次として落語家の道を歩み始めました。2007年には二ツ目に、そして2018年9月に真打に昇進し、古今亭駒治と改名。2010年には共同通信社主催の東西若手落語家コンペティションでグランプリを受賞するなど、今期待の落語家です。
この日の寄附講座が行われたUniversity Concert Hall 2016内の教室には、教壇の上に座布団が置かれ、駒治師匠の登場を待つばかりということになっていました。そして駒治師匠が登場する前に、リベラルアーツ学部の教授陣による落語の解説がありました。江戸時代に現在の形になった落語は、日本における代表的な庶民の芸能。落語家が一人で何人もの役を演じ分け、また演じる際に使用する小道具は扇子と手ぬぐい程度という点が大きな特徴です。また話の最後に「落ち(サゲ)」をつけることから「落としばなし」とも呼ばれてきました。落語家が大喜利を行うテレビ番組もありますが、それは落語家にとって余技のようなもの。高座に上がって一席ぶつのが、落語家本来の芸といえます。
こうした解説の後に、駒治師匠が登場しました。
「はい、みなさんおはようございます」という第一声から、マイクが必要ないほど張りのある大きな声で挨拶をする駒治師匠。今日は落語がどういうものなのかを知ってもらいたいと語ります。
高座に上がり、話を進めていくのが落語です。演じる役に合わせて声色を変え、顔の向きを変えたりしながら一人で登場人物を演じ分けていきますが、「実は落語の主役は、聞いている皆さんなんです。皆さんの頭の中で、今どういう人が喋っているのか、どういう場面なのかを想像しながら聞いていただく。それが落語の本分なんですね」という駒治師匠の説明に、頷く学生たち。
こうした説明の後、実際に駒治師匠が落語を演じてくださいました。この日の演題は高校を舞台にしたものとプロレスを舞台にしたものの二本で、どちらも新作落語です。それらの落語を演じる前には「マクラ」と呼ばれる小咄も披露してくれました。この日の二本の演題はあらかじめ決められていましたが、普段の高座ではマクラを披露した際の観客の反応を見て、その場で演題を替えることもあるそうです。そして演じられた二本の落語はどちらも20分ほどの内容でしたが、声色はもちろん声の強弱や速度を巧みに変えることで、聞き手があたかもそこにいるような臨場感を演出。笑っているうちに、あっという間に落ちまで持って行くその話芸に、学生たちも思わず引き込まれてしまいました。
その後、学生たちの質問に答えてくださった駒治師匠。「日常の話を面白くするコツは?」という質問には「話の内容は軽く膨らます程度に、できれば自分を『落とす』ような話のほうが受けますよね」と、また「落語をリズムで覚えるということでしたが、こうしたら覚えやすいという方法はありますか」という質問には「人前で話す内容であれば、まずは喋り言葉で書き出してみるといい。何度も読んでいると口が慣れてくるので、そこで台本を外すと、自分なりの言葉を入れられるようになると思います」など、落語家ならではの視点で学生たちの質問に答えてくださいました。
大学から玉川学園に通うようになった駒治師匠。「私の時代は入学式の前日に予行演習を行ったり、何かと歌を歌ったりと、毎日が驚きの連続でした。でもそうした思い出が多い分、卒業後に同窓生と出会っても、共通の話題がたくさんあります」と、玉川で学んだ良さを語ってくれました。
寄附講座で落語は意外な組み合わせですが、日本の伝統芸能に触れることができ、リベラルアーツ学部らしい学修経験といえます。また話し方一つで聞き手の気持ちを掴む技術は、日常生活でも大いに役立つことでしょう。学生にとってもまたとない学びの機会となりました。