全人教育提唱100年記念シンポジウム開催
「全人教育の歴史と展望」をテーマに100年の歩みと未来を語る(前編)
玉川学園創立者・小原國芳が唱えた「全人教育」が、2021年に提唱100年になるのを記念してこの9月にシンポジウムを開催しました。シンポジウムでは、全人教育100年の歩みをまとめた動画の初披露や、小原國芳と親交の深かった小林宗作氏が設立したトモエ学園の卒業生、女優の黒柳徹子氏によるビデオメッセージのほか、3名のシンポジストを迎えて、全人教育の歴史的観点やこれからの全人教育の課題や展望について議論するなど充実した内容でした。
9月12日、玉川大学 University Concert Hall 2016にて行われた、「全人教育提唱100年記念シンポジウム ―全人教育の歴史と展望― 」は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からオンライン中継形式で実施されました。視聴者は500名を超え、理想の教育といえる「全人教育」への関心の高さを物語っていました。
全人教育100年の歩みを伝える動画の初披露
「オープニング」で映し出された「全人教育100年の歩み」を伝える動画は、全人教育を語る小原國芳の力強い肉声を聞くこともできる貴重なものでした。
1921年(大正10年)8月に開催された大日本学術協会主催の八大教育主張講演会では、期間中、毎日一人ずつ論者が登壇。最終日には小原國芳が「全人教育論」を発表しました。当時34歳のまだ若い國芳が説いたのは、中庸をゆく真実の教育を要求したものでした。この時、日本で初めて「全人教育」が社会に向けて提唱された瞬間となったのです。
小原國芳は、人間形成には「真・善・美・聖・健・富」の6つの価値を調和的に創造することが必要であるとし、それは学問、道徳、芸術、健康、宗教、生活において人間文化を豊かにすることと考え、「真・善・美・聖」を絶対価値、「健・富」を手段価値と位置づけました。そしてこれら6つの価値を統合した人間を、「全人」と呼びました。
1929年に創設された玉川学園では、創立者・小原國芳の掲げた教育の理想を実現するため、創立から90年以上たった現在でも、変わりゆく時代に対応しつつ、全人教育を中心に据えた教育理念が変わることなく貫かれています。
「全人教育100年の歩み」を紹介する動画のしめくくりでは、次のように語られています。
「全人教育提唱から100年、小原國芳の蒔いた種は今や全国に広がり、海外でも注目されています。日本の教育課題となった生きる力は、“全人的な力”と説明され、誰一人取り残さないという、世界へ向けた“SDGs”や、互いに尊重し合える“未来社会ソサエティ5.0”への取り組みも、全人教育を必要としています。教育の本質に迫る國芳の主張は21世紀の今も生き続けています」
温故知新――古き教育に学び、未来を見通す知恵に活かそう
次に、学校法人玉川学園理事長小原芳明からの挨拶です。
日本で初めて全人教育を提唱した小原國芳は、全国津々浦々、講演旅行をし、全人教育論は多くの人たちからの賛同を得ました。そして現在では多くの学校が教育理念の一つとして掲げるにいたっています。10年ほど前に「全人教育」を意匠登録申請をした際は、広く一般に普及していることを理由に認可されなかったということがあり、認知度の高さを実感するとともに、全人教育の意味が正しく理解されていないのではないかと危惧したことを打ち明けました。
現在、平成から令和に入り、新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックに見舞われ、急激な時代の変化、想定外の出来事、予測困難な状況下におかれた、まさしくVUCA(Volatile,Uncertain,Complex,Ambiguous)の時代だとし、今こそ「教育は温故知新」と、過去を振り返り、未来を見通す知恵を見出そうと訴えました。
2021年は世界の子どもたちのために学校教育に取り組んできた国際的な新教育の団体、「WEF(World Education Fellowship)」の創立100年周年です。「日本支部会長だった國芳をはじめ、哲郎(名誉顧問)、私(芳明:常任理事)と長年に渡り、WEF東京国際会議に関わり活動しています。全人、WEFと私達がすすめている教育活動と同様に、世界の子どもたちのために活躍する、ユニセフで、長年親善大使を務めてこられた黒柳徹子さんからのビデオメッセージが本日のために届いています」と紹介しました。そして最後に「今日のシンポジウムが皆さまにとって、大切な学校教育とは何かを考える機会になれば幸いです」と開会の挨拶を結びました。
子供たちが喜ぶ教育、学校に来たくなる教育を願う
オープニングを締めるのは、女優、声優、司会者、作家であり、長年ユニセフ(国際連合児童基金)の親善大使を務める黒柳徹子さんからのビデオメッセージです。黒柳さんは、小原國芳と大変親しかった小林宗作先生が設立したトモエ学園の卒業生です。トモエ学園は玉川学園と同様に画一的な古い教育を払拭し、子供の個性や自由、創造性を貴ぶ学校です。黒柳さんが受けてきた教育や、先生方への期待を含めて、たくさんのエピソードをビデオの中で披露してくれました。
東京に生まれた黒柳さんは、小学校1年生の時に自由ケ丘のトモエ学園に編入しました。全校生徒50名ほどの学校は、玉川学園に共通する、子供の個性を尊重し、自由に創造性を育む教育方針を掲げていました。その創立者の小林宗作先生は、玉川学園で教鞭の経験があり、小原國芳と親交が深かったそうです。黒柳さんが小学2、3年生の頃、全校生徒で玉川学園を訪れたことがありました。敷地内の畑や子供たちが世話をしている動物をみて、うらやましく、皆大喜びだったそう。「伸び伸びとして、ロバもいて、自然がいっぱいあるいい学校だな」と、楽しかった思い出を回想されています。
トモエ学園の小林先生の思い出で印象に残っていることとして、初めて会った時のエピソードを挙げていました。「『何でも話したいことを話してごらん』と言われて、話すことが無くなるまで、なんと4時間も話し続けていたのですよ。そんなに長い間、話を聞いてくれていたんです」と、このことが先生を信頼するきっかけだったことを教えてくれました。
小林先生も小原先生も、「子供が大好きな大人だったと思います。どうしたら子供たちが楽しい、おもしろい、よかったなと思ってくれるかを、いつも考えてくださる」と評しました。
黒柳さんは、「小学校の頃のことをよく覚えてますね」とよく驚かれることがあるそうです。「おもしろいことは忘れないと思うんです。(中略)(教師は)時間がなくて大変だろうけれど、子供たちが来たがるような学校してほしいなと思っています」と話しました。
長年務めるユニセフの親善大使としても、「世界中の子供がみんな同じように勉強できるように」と述べ、玉川学園の明るい未来を期待し「これからも、子供たちが喜ぶ教育をしてくださることを祈っています」と結びました。