若月先生:インクルーシブ教育(保育)システムの構築Vol.3:インクルージョンの難しさ

2013.09.26

障碍のある子どもを含む保育の方向性を保育実践の中で検討することは、その理念を超えて実践の中から具体的な子どもの姿や保育者の行動などを丁寧に読み取ることが必要です。実践研究は事例研究などの手法を用いて、現場の保育者や第三者的な立場で保育を検討することが求められています。

保育の中で障碍のある子どもの保育をしている保育者は、時に大きな悩みを持ちます。その理由は、子どもが保育者の願いや思いとは異なった行動をすることがあり、自身の思っているように動いてくれないことなどがあります。保育者はそのような場面で、子どもの興味や関心を大切にしたいと考えて対応や援助を考えます。しかし、一般の子どもの行動よりも理解が難しかったり、その方向性が異なっていたり、一つのことに固執するなどの特性を持っています。特に多動傾向のあるお子さんの場合には、現在の保育の中に参加することが困難となり、結果的にクラスの中に存在することが難しくなり、担任との関係性の成立も難しい場合もあります。

統合保育における分離保育の可能性

こうした状況を少しでも克服するために、保育の現場では担任以外の「フリー」「補助」「加配」(ここでは加配と称す)などの配置を考えるようになっています。しかし、担当する保育者の力量や資質が問われることが多いのです。担任以外の保育者が保育の中で子どもと関わることの重要性は否定できません。しかし、加配保育者の障碍のある子どもへのかかわりによっては、分離保育になってしまうことがあります。

加配の保育者は活動への参加を第一義的に考え、他の子どもと同じ行動が出来るための援助に終始することがあります。その結果として、障碍のある子どもに対して少し強い口調になったり、活動への参加を強要することになると、結果として参加させることが第1優先となり、子どもの気持ちや興味関心は置いておいて、大人がやらせたいことが大切にされることがあります。活動への参加を否定することではありませんが、子どもの思いや考え、興味関心はなかなか表には出すことが出来ません。問題になるのは、「出来る」「出来ない」という表面的な行為だけで子どもを評価することです。

障碍のある子どもは、その特性から出来ないことが多く、そこに障碍としての特性があるのです。正しいことをさせたいと言う保育者の願いが強ければ強いほど、子どもにとっての園生活が厳しい状況になってしまう可能性があります。

以上のような現実は多くの統合保育やインクルーシブ保育を実践している園でも多く見られます。では、どのようにこのような問題を解決する必要があるのでしょうか。

筆者は日本保育学会において本研究に十数年取り組んできました。その研究の中で以下の点について実践の保育に対する提案をしてきました。※1

  1. 子どものニーズに応える
    子どもは一人一人異なった教育的ニーズを持っている。これは、表面的なものもあれば内面を深く理解しなければわからないこともある。このニーズを探ることが保育の出発になる。
  2. 関係作りを意識する
    子どもが保育に楽しく参加するためには担任や周囲の子ども、そして物との関係など、関係を作ることを意識する必要がある。何かをさせることから、関係作りを意識した保育の再構築は、どの子どもにとっても必要な保育のあり方である。
  3. 参加させるための保育から共に楽しむ保育へ
    何かをさせたい、という思いは、保育者であれば誰もが思うことである。しかし、この意識が保育者の口調を強くしたり、相手の存在を無視したことばをかけるようなきっかけになる場合が多い。このことは、共に楽しむ発想へパラダイムシフトする必要がある。
  4. 常に相手の気持ちを考えた言葉かけを意識
    相手の気持ちを読み取りながら見通しを持ったことばかけを心がけると、相手の思いや主張が読み取れる場合が多い。そのためには保育にゆとりが必要である。
  5. 状況に応じた工夫
    状況に応じて柔軟に保育を変えることができないと、保育者の思いが先行する。行事などは保育者や園としての工夫が問われることが多い。
  6. 資源を豊かにし、活用できること
    リソースとしての資源を幅広く持ち、子どものニーズに応じてどこまで出せるかが問われる。状況に応じたリソースの提供は保育の重要な課題である。
  7. 園内連携と研究会
    障碍のある子どもとの生活では保育者間の連携が欠かせない。学級王国や担任任せの保育は、子どもも保育者も孤立する場合がある。園外の研究会への参加も自己の拡大に役立つ場合もあるし、保育カンファレンスなども欠かせない。

以上の7つの提案を保育の中で実現することが結果的にインクルーシブ保育につながる可能性があります。一つずつを丁寧に考えると、園の中で実践することの難しさも否定出来ません。各園には伝統や歴史があり、それは「園文化」として脈々と受け継がれています。障碍のある子どもが園に存在することは、今ある保育のあり方や考え方に意義を唱えているとも言えるのです。その考えると、障碍のある子どもの受け入れを推進することは、必ずと言って良いほど「保育の見直し」を迫られるのです。障碍のある子どもを受け入れることによって小さな変革や見直しが必要になってきます。

多くの幼稚園・保育所では統合保育の実践が推進されていますが、保育の見直しに取りかからずに、子どもを保育に合わせることを第一義的に考えてしまうと、子どもに負荷かかかり園生活に馴染むことが難しい状況になる可能性があります。障碍のある子どもの要求やニーズに合わせていくことで、障碍のある子どもが安定して生活できる園の実践も多くあります。

個々子どもの理解に基づき、育ちを大切に考える実践を積み重ねることに意識を持たなければ、インクルーシブ保育には至らないことを現場では具体的に理解する必要かあります。

次号では、今回のコラムのまとめとして、保育実践のあり方と園文化の理解について掲載します。

  • 1日本保育学会 論文集 「障碍のある子どもを包括する保育実践の方向を探る」(1)~(27)
    若月芳浩・渡辺英則・本田俊章 1999~2012