クロマルハナバチの女王バチと働きバチ:違いは大きさだけではなかった!?
-生殖(卵形成)と脳内ドーパミン量における雌性カースト間の差異を発見
2017.11.28
マルハナバチは、一年性の生活史をもつ真社会性のハナバチで、ミツバチのような多年性の生活史をもつ高次の真社会性種との比較研究を通じて、社会性ハナバチ類の生理学的研究を進める上での好適なモデル生物とされています。
ミツバチは繁殖時も分蜂といって女王バチと巣を構成する多数の働きバチが行動を共にし、生活史において女王バチが単独で過ごすことはなく、両者間には形態学的にも生理学的にも大きな分化(表現型多型)が認められています。その点、巣は1年で解散し、巣の創設は女王バチが単独で行うマルハナバチの女王バチは、花から蜜を吸う口吻や花粉を集める肢の花粉かごなど、働きバチとしての形態形質も備えており、両者の差は体のサイズ程度しか見出せませんでした。
一方、マルハナバチを含むハチ目の昆虫は、メス性は受精卵からオス性は未受精卵から発生するという基本法則があり、受精卵から発生する女王バチと働きバチの性別はすべてメスであることが知られています。女王バチと働きバチの分化は、幼虫時期に与えられる餌の量の差と考えられ、遺伝的には同一でありながらも少ない餌で育てられた働きバチは小型となり、巣内では、蜂児の世話、餌集めなどの労働を担当し、生殖を担当する女王バチと分業しています。
しかし、体の小さなメスである働きバチも条件によっては、卵巣を発達させて未受精卵は産むことができます。また、体の大きなメスである女王バチも羽化後にオスと交尾ができない状態で長期間おかれると卵巣が発達して産卵を開始します。両者間に共通の卵巣の発達という現象ですが、脳内のドーパミン量を比較すると働きバチでは卵巣内の卵形成とその生体アミン量が正の相関を示したのに対して、未交尾女王バチではそのような相関が認められませんでした。オスと交尾して巣を創設し受精卵を産める状態の女王バチでも、卵形成と脳内ドーパミン量との間に正の相関は認められませんでした。
このことは、ミツバチのような高次のレベルまで社会性を発達させていない段階のマルハナバチにおいても、生殖という重要なタスクにおいて生理学的な面からの分化が生じていることを示しており、ハナバチ類の社会進化の研究に一つの興味深い知見を与えたことになります。
論文タイトル
Caste differences in the association between dopamine and reproduction in the bumble bee Bombus ignitus
著者
- 1)佐々木 謙:
玉川大学農学部、大学院農学研究科 教授
- 2)松山日名子:
玉川大学大学院農学研究科 研究生:2015年度博士課程後期単位取得
- 3)森田成亮:
玉川大学農学部生物資源学科 2014年度卒業生
- 4)小野正人:
玉川大学農学部、大学院農学研究科 教授、農学研究科長、農学部長
掲載誌、巻(号)頁
Journal of Insect Physiology、103(11):107‐116.
掲載年月
2017年11月