玉川大学脳科学トレーニングコース2016が開催されました
2016年6月23日(木)から6月25日(土)の3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2016」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。
第6回目となる今回のトレーニングコースでは、5つの実習コースに全国から計128名の応募があり、書類選考で選ばれた26名の方が受講されました。
実習コース
1.ラットのマルチニューロン記録と解析法コース(受講4名)
担当:礒村宜和、相馬祥吾、佐村俊和(山口大学)
2.霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術コース(受講6名)
担当:鮫島和行、坂上雅道、木村實
3.ヒトのfMRI基礎実習コース(受講6名)
担当:松元健二、松田哲也
4.乳幼児の行動計測とその解析コース(受講5名)
担当:岡田浩之、梶川祥世、岩田恵子
5.社会科学実験入門コース(受講5名)
担当:高岸治人、山岸俊男(一橋大学)
共通コース
開会式・懇親会(1日目)
Jam Session~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)
担当:酒井裕
ランチ交流会(3日目)
閉会式(3日目)
受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。
- 主催玉川大学脳科学研究所
- 共催玉川大学大学院脳科学研究科
玉川大学大学院工学研究科
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築
文部科学省科学研究費補助金
「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構」 - 協賛株式会社岩崎清七商店
小原医科産業株式会社
株式会社フィジオテック
バイオリサーチセンター株式会社
マスワークス合同会社
室町機械株式会社
受講者の声
ラットのマルチニューロン記録と解析法
磯村教授が主催された“ラットのマルチニューロン記録と解析法”コースに参加させていただきました。私は、普段の研究では麻酔下の疼痛モデルラットを用い、single unit recordingを行っています。研究の幅を広げるためにマルチニューロン記録、かつ覚醒下のラットにタスクを行わせ神経活動を記録する手法を学びたいと思い、本コースに応募いたしました。磯村教授を始め、研究室の先生方の熱意のこもったご指導により、予想をはるかに超えた有意義な時間を過ごさせていただきました。
1日目
磯村教授より、ラットの行動実験系やマルチニューロン記録法について基本的な部分から、現在の実験系を確立するに至った背景、実際に実験で使用している器具等の詳細についてご講義いただきました。その後は実験室に移り、相馬先生からコリジョンテストやラットの訓練方法を見せていただきました。夜の懇親会では、玉川大学の先生方だけではなく、多くの参加者の方々とお話しする機会に恵まれ、脳科学という領域を多角的に考え直すことができました。
2日目
タスクを行っているラットからのマルチニューロン記録およびラットへの頭部固定装置設置術を吉田さん、川端さん、Alainさんから教えていただきました。繊細な技術を要する手術を行いながら、同時に術式の詳細な部分まで実践的にご説明頂き、大変勉強になりました。また、今まで確立してこられた技術に加え、オプトジェネティクスを取り入れた研究についての話も伺え、大変感銘を受けました。夜のJam sessionは同じ脳科学のフィールドとは言え分野の異なる、更には国境をも超え、多彩なバックグラウンドを持つ方々と議論を交わすことができ、研究とはまた違った刺激を受けることができました。
3日目
マルチニューロン記録で得られたデータを解析するスパイクソーティングの方法を、実際にPCを扱いながら指導いただきました。3日間を通して、頭部固定装置設置、訓練方法、マルチニューロン記録、データ解析と一連の流れを、基本的な部分から体系的に理解することができました。
改めまして、このような貴重な研究経験を積める機会を企画してくださった玉川大学の先生方、そして細かい手技までご指導してくださった研究員や大学院生の方々に深く御礼を申し上げます。限られた時間ではありましたが、磯村研究室の高度な研究手法及び全ての先生方の高い志に魅了されました。今回勉強させていただいた内容を活かし、自らの研究も発展させていきたいと思います。
(日本大学 片桐綾乃さん)
霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術
私は今回の玉川大学脳科学トレーニングコースにおいて、霊長類の行動・神経の計測・解析技術コースに参加させていただきました。
一日目は鮫島先生の講義を拝聴させていただきました。講義では、霊長類研究の概要、霊長類研究を行う意義、各種生体信号計測法(Optgenetics,DREADDsやECoG等)、行動解析技術、研究の歴史、さらには実際に行動中の霊長類から神経活動を記録する実験を行ううえでどういった注意が必要となってくるのか(霊長類屋の暗黙知)といった非常に多岐にわたるお話をしていただきました。また、この日は座学だけではなく、実際に霊長類の飼育、手術や実験を行う環境も見学させていただきました。
二日目は木村先生、坂上先生、田中先生、小口先生の講義を拝聴させていただきました。木村先生の講義では、行動課題において筋活動を計測する意義や、先行研究についてお話していただきました。特に、今知りたいことに対して最適な動物を選択する重要性に関するお話はとても印象に残っております。坂上先生の講義では,眼球運動の基礎と測定方法に関してのお話を、田中先生の講義ではECoGを用いて実際にどのような研究が行われているのかに関するお話を、小口先生の講義では化学遺伝学的手法に関してのご説明と実際の研究例のお話をしていただきました。また、この日の終わりにはJamSessionがありました。そこではまず、テーマ「人工知能は人類を脅かす存在になりうるか」に関する大森先生の講義を拝聴し、その後他コースの方とグループになってテーマに対する討論、発表を行いました。様々な研究バックグラウンドを持っている方々との交流を行うことができ、とても興味深い時間を過ごさせていただきました。
三日目は鮫島先生より、行動及び神経活動の解析手法に関するお話をしていただきました。単一点電極により記録された信号に対し実際に解析を行う手順や、モデルベース解析手法等に関してお話していただきました。また、最後に演習として実際に霊長類の脳を取り出す手術現場を見学させていただきました。実際に脳を手に取っての観察は、脳に対する新たな理解を深める上でとても参考になりました。
三日間を通して、論文を読むだけではわからない実験の現場を体感することができたことは、とても刺激的で、今後の研究を行ううえで非常に大きな財産となりました。トレーニングコースを支えていただいた皆様にこの場を借りてお礼を申し上げます。
(大阪大学 佐武宏香さん)
ヒトのfMRI基礎実習
私は今回、玉川大学脳科学トレーニングコース2016、ヒトのfMRI基礎実習コースに参加させていただきました。
1日目は実際に参加者6名がfMRIの機械の中で報酬課題を行い、自分たちのfMRIデータを取得しました。データを取得している間も、先生方が様々なことを説明してくださり、また我々の素朴な疑問に答えてくださるという大変貴重な時間となりました。私は、既にfMRI実験を行っておりますが、玉川大学で実際に入る前の注意事項の確認や教示の出し方、機械に入っている間の声かけなど自分が被験者となり体験することができ、とても参考になりました。例えば、MRIの中に入っている間は不安が高まるものですが、頻繁なはっきりとした優しい声かけや、コミュニケーションにより、被験者として安心感を得ることができると体感いたしました。また、既存データを渡されるのではなく、実際に参加することで撮影にはどれくらいの時間がかかるのか、機械の準備にはどのようなものが必要なのかということも知ることができ、本当に貴重な体験であったと思います。
2日目は、一人ひとりにパソコンが与えられ、1日目に撮影したデータをSPMという解析ソフトを用いて、それぞれが個人解析を行いました。解析の前にMRIとfMRIの原理についての講義もあり、大変勉強になりました。一つ一つの作業についても、今どのようなことをしているのかという説明もしてくださり、また多くのチューターの方も参加してくださっていたため、一人も遅れることなく、参加者全員が理解、完遂できるまで丁寧に教えて下さいました。
3日目は、2日目の個人解析の6人分の結果を用いて集団解析を行いました。報酬課題を行った時の主体験と脳の活動が実際に連動していることがわかり、また仮定通りに扁桃体の活動の亢進が観察でき、参加者全員が感動いたしました。
実際にMRIの研究を始めてしまうと、なかなか講義などに参加できる機会は少なく、東京という利便のよい玉川大学でトレーニングコースに参加できたことは、とても有意義な時間でした。また、一緒に参加していた他5名の方もすべて異職種の方であり、普段の生活ではなかなか出会えない方たちと共に勉強ができたことも貴重な経験であったと思います。今回得た知識を、今後の自分の研究に役立てて参りたいと思います。
玉川大学のみなさま、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。
(慶應義塾大学 片山奈理子さん)
乳幼児の行動計測とその解析
私は大学院で赤ちゃんの認知発達と早期のストレス環境との関係について研究しています。この度は、乳児の行動解析の技術をさらに磨きたいと思い、この脳科学トレーニングコースを受講させて頂きました。
初日は、視線計測の基礎知識やTobii(アイトラッカー)に関する操作・分析方法に関するレクチャーを受けた後、据置型・アイグラス型のTobiiを体験しました。また、赤ちゃんラボを見学させて頂き、母子を実験室に呼ぶ際の工夫や注意点について学びました。
二日目の午前は、乳児研究において心拍を用いる際の利点や、解釈の仕方等についてレクチャーして頂きました。その後、一組の母子に赤ちゃんラボに来ていただき、赤ちゃんがさまざまな音楽を聴いている際の心拍を実際にモニターさせて頂きました。ここでは、赤ちゃんの音声刺激に対する注意が心拍低下に反映されることをデータで確認することが出来ました。
二日目の午後からは、岩田先生の共同研究先の保育園まで足を運び、0~5歳児の保育園での行動を観察させて頂きました。翌日、行動観察での受講者の感想や気づいた点をもとに討論し、乳幼児の発達を日常の環境や、対人関係の中で捉える重要性について学びました。
私自身はすでに乳児の心拍・視線を利用した研究を行っていましたが、この三日間を通して、乳幼児研究を実施する上で必要な環境整備や配慮、これらの指標の妥当性・有用性をもう一度基礎から学び直すことができました。また、懇親会やJam sessionなどを通して、他コースの先生方や受講生とも交流する機会が多くあり、脳研究に関する議論をさせて頂けたことも大変刺激になりました。
最後になりましたが、お忙しい中ご指導下さいました、岡田浩之先生、梶川祥世先生、岩田恵子先生、そして、ご協力下さいました、調査協力者のお母様と赤ちゃんに深く感謝いたします。
(京都大学 新屋裕太さん)
社会科学実験入門
-私は「文系」です。
-私は「社会心理学」を専攻しています。
-私は「自由意志と責任・罰」について研究しています。
さて、いったい何故、私は脳科学トレーニングコースを受講しようと思ったのでしょう。客観的に見て、およそ脳科学とは縁遠い場所に、私は立っているように思うのですが。この疑問に答えるなら、私はもともと脳科学に興味があってこのコースを受講したわけではなく、社会科学実験入門コースという、より「文系っぽい」コースに興味を持って申し込んだのです。実験プログラムの作り方を学べるという、非常に道具的な興味から。以下では、3日間を振り返って、自分が何を学んだのか、考えてみたいと思います。
初日は、Microsoft Visual Studio を用いて、visual basicについて説明を受けながら、実際に簡単な実験プログラムを作成する、という内容でした。初日ということで、張り切りすぎていたかもしれません。お菓子や飲み物の存在を忘れ、カタカタとキーボードを打ち、走らないプログラムに嘆息し、数時間、悪戦苦闘していました。余談ですが、プログラムが正常に走った時の安心感と達成感は、病みつきになるものがありました。
2日目は、研究室の方々から、利他性と脳科学についての最新の研究をご紹介いただきました。自身の研究テーマとも大きく関わる、非常に興味深い内容でした。また、模擬実験に参加し、大規模な実験を実施する際の実験マニュアルの書き方や、匿名性の保護などを学びました。夕方には山岸俊男先生とお話しする時間もあり、自身の研究計画や研究テーマについて、各人が悩みや疑問をぶつけていました。夜にはJam Sessionもあり、こうして改めて考えると、非常に「濃い」1日でした。
最終日は、研究室の方々から、1人で実験を行う場合の実施方法について学びました。実際に参加者の方がやってきてから、同意書の記入や実験の説明、実施、帰られるまでの流れについて、実に細かく教えていただきました。
こうして振り返ってみると、単に実験プログラムの組み方に留まらず、実に多くのことを学べたように思います。特に、利他性の知見に触れ、自身の研究テーマに多くの示唆を得ました。紙幅の関係上、詳細は割愛しますが、自身の今後を大きく左右することになったのは間違いありません。最後になりますが、今回ご指導いただいた高岸治人先生、山岸俊男先生、研究員の皆様、そして共に学んだ4人に、改めて感謝の意を捧げ、筆を置きたいと思います。
(東京大学 笠原伊織さん)
Jam Session ~分野を越えて思考の調和を奏でよう~
この度、玉川大学脳科学トレーニングコース2016 「ヒトのfMRI基礎実習コース」に参加させていただきました。私自身、工学を専攻する身であり脳科学の領域は初心者同然の状態でしたが学ぶことの多い大変充実した3日間でした。
さて、本題であるJam Sessionはトレーニングコースの折り返し地点2日目の夜に開催されました。例年開催されるこのJam Sessionとは多様な背景を持つ学生・研究者等がいくつかのグループを組み、一つのテーマについてディスカッションを行う刺激的な場になります。そして今回テーマとして選ばれたのは今最もホットな話題の一つであろう“人工知能”、その人工知能が人類にとって脅威に成り得るか否かという問題です。現在、人工知能は機械学習の進歩や、コンピュータの性能向上等に伴い研究での活用が増え、実際分野を跨って成果を上げています。しかしながら同時に人工知能の発展に対する懸念もあります。例えばシンギュラティ(AIが人類を超える日)という本では人工知能は将来的に人間の労働を奪い去るという見解が述べられています。研究職を人工知能が担うようになったら、実験から論文執筆まで全て自動化されるのかもしれません。これら背景を踏まえ制限時間内に問題を議論し、プレゼンテーションをすることが求められました。
私たちの班も実際工学、社会心理、発達障害等といった異なる領域に身を置くメンバーによって構成されており、互いの自己紹介が終わると直ぐ様ディスカッションが始まりました。そもそも知能とは?脅威とは?と定義に対する疑問に端を発し、各々自身の領域を交えた意見が飛び交います。時間が迫る中、なかなか収束しない意見をなんとかまとめるも、まさしくJamと呼べる発表内容に講師陣からの厳しいツッコミが飛んできました。しかし、メンバーもやはり議論慣れしているだけあって次々と回答していきます。問題の着眼点や受け答えなど、質疑応答を取っても勉強になりました。
トレーニングコースには、驚いたことに学部や修士よりも寧ろ博士や研究生が多くの割合を占めていました。そんな脳科学に挑む若手研究者達と意見を交え、親睦を深めることができるJam Sessionは私自身研究へのモチベーション向上に繋がるいい体験になりました。
末筆になりますが、このような学びと交流の場を設けてくださった講師及びスタッフの方々にお礼を申し上げます。
(東京理科大学 立原愼也さん)