玉川大学 研究所

玉川大学・玉川学園Webサイト
IEサポート終了のお知らせ

玉川大学・玉川学園webサイトTOPページリニューアルに伴い、Microsoft 社の Internet Explorer(以下、IE)のサポートを終了いたしました。本学園が運営するサイトをIEで閲覧した場合正しく表示されない恐れがございます。
皆様にはご不便をおかけしますが、別のブラウザを利用しての閲覧をお願いいたします。

玉川大学脳科学トレーニングコース2017が開催されました

2017.09.14

2017年6月8日(木)から6月10日(土)の3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2017」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。

第7回目となる今回のトレーニングコースでは、5つの実習コースに全国から計75名の応募があり、書類選考で選ばれた23名の方が受講されました。

実習コース

1.ラットのマルチニューロン記録と解析法コース(受講4名)

担当:礒村宜和、吉田純一、佐村俊和(山口大学)

2.霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術コース(受講6名)

担当:鮫島和行、坂上雅道

3.ヒトのfMRI基礎実習コース(受講6名)

担当:松元健二、松田哲也、飯島和樹

4.乳幼児の行動計測とその解析コース(受講3名)

担当:佐治量哉、梶川祥世、岩田恵子、岡田浩之

5.社会科学実験入門コース(受講4名)

担当:高岸治人、松本良恵、藤井貴之

共通コース

開会式・懇親会(1日目)

Jam Session~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)

担当:酒井裕

 

ランチ交流会(3日目)

 

閉会式(3日目)

 

受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。

  • 主催玉川大学脳科学研究所
  • 共催玉川大学大学院脳科学研究科
    玉川大学大学院工学研究科
    玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
    心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築
    文部科学省科学研究費補助金
    「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構」
    「認知的インタラクションデザイン学」
  • 協賛小原医科産業株式会社
    株式会社岩崎清七商店
    株式会社フィジオテック
    バイオリサーチセンター株式会社
    マスワークス合同会社
    室町機械株式会社

受講者の声

ラットのマルチニューロン記録と解析法

私は普段、認知行動課題遂行中のマカクザルから単一神経細胞記録を行い、個々のニューロンがどのような情報をコードしているのか調べています。一方、サルと比べ、ラットが動物実験ではより多用されています。より多様な視点で脳科学の研究を捉えるために、異なる実験動物を用いる研究の特徴を把握する必要があると思います。よって、今回の貴重な機会をお借りし、ラットを用いる研究の全体像を学ぶために、ラットのコースに参加しに参りました。

1日目
午後:礒村研究室で行われている研究内容や実験手法について、礒村先生から詳しくご紹介頂きました。また、ラットの訓練方法について川端さんから説明して頂きました。その後、吉田さんとアラインさんが行われた脳に電極を刺すための手術を見学させて頂きました。

夜:懇親会
脳に興味を持つ先輩方、先生方とお話しできる良い機会を得ることができました。礒村先生はご自身の研究者としての経験を話し、「自由を追求したいなら、失敗を恐れるな。」と熱く語っていらっしゃいました。

2日目
この日は、マルチニューロン記録実験を見学させて頂きました。テトロードを使った複数のニューロンから同時に神経活動を記録する方法、ニューロンの投射先を同定するコリージョンテスト(collision test)の原理など、相馬先生や野々村先生から詳しいご説明頂きました。また、光遺伝学を用いてラットの運動野を刺激し、腕の動きを誘発する実験を見学しました。

3日目
午前中:データの解析
マルチニューロン記録で得られたデータの解析方法を酒井先生からご説明頂き、パソコンで実際に解析してみました。特に、クラスタリング解析や自己相関、相互相関について学びました。

今回玉川大学脳科学トレーニングに参加し、研究室で実際に行われている実験を見学することによって、ラットのマルチニューロン記録法を用いた研究の全体像を把握できるようになりました。学んだことを自分自身の実験に生かし、新しい視点で研究を進めていきたいと思います。最後に、改めまして、丁寧にご指導してくださった先生方や研究員、大学院の方々に深くお礼を申し上げます。

(筑波大学 惲 夢曦さん)

霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術

玉川大学で学ぶ友人から勧められたことがきっかけで、今回初めて本トレーニングコースに参加させていただきました。私は大学院で新たに霊長類を用いて研究を開始する予定のため、自ら研究を開始する前に少しでも霊長類を用いた神経科学研究について学びたいと思ったことが、霊長類コースを選択した主な動機です。

コースの1日目は、まず鮫島先生より現代神経科学研究における霊長類の有用性や、霊長類を使用した実験の流れについてのご講義を受けました。特に、鮫島先生の「サル屋(霊長類を使用している研究者)が研究を進めるうえで必要となる知識には、いわゆるコツといった、文章化が難しく論文には明記されないような暗黙知の部分も多い。サル屋の暗黙知を敢えて明示的に伝えることを本講義の目標とする」という趣旨のイントロが印象的でした。イントロ通り、ニホンザルを長年扱ってこられたご経験を基礎とした、明日にでも自分の実験に応用できるような具体的アドバイスがふんだんに練りこまれたご講義でした。講義のあとは、ニホンザルの飼育設備や実験施設を見学し、講義で紹介いただいた種々の装置が実際に使われている様を目の当たりにしました。

2日目では、主に田中先生と小口先生より講義と実習のご指導を受けました。田中先生からは、Electrocorticogram(ECoG)を用いたサルの脳活動計測についてのご講義を拝聴しました。私自身はこれまでECoGについてはほとんど知らなかったのですが、どのような形状の電極を用いるのかなど基本的なことから、電極の実物を触りつつ理解できました。次の小口先生のご講義では、遺伝子組み換え技術による神経回路の操作、とりわけ特定の化学物質のみに反応するよう設計された人工受容体DREADDsを用いた回路特異的操作について学びました。私は本講義を受けるまで、同じく回路特異的な操作を可能とする技術であるオプトジェネティクスと比べた時に、時間分解能で劣るDREADDsの何が優れているのかわかりませんでしたが、小口先生のご説明により疑問が氷解しました。講義後、午後の実習ではサルの脳切片を作製し、次いでサル専用の手術室にてサルの手術を見学しました。私は医学部出身のため外科手術自体は見慣れた光景でしたが、人間の手術とは微妙に異なる点も多く興味深かったです。

3日目はまず、坂上先生から眼球運動を制御する神経回路についての講義を拝聴しました。前庭動眼反射やサッケードといった眼球運動自体の分類から教えていただき大変わかりやすかったです。そのあとは鮫島先生のご指導により、動物がより良い報酬を求めて選択を行う際の意思決定を強化学習の枠組みでモデル化する実習を行いました。現代の神経科学研究においては不可欠な要素となっている数理的解析に触れる良い機会となったかと思います。

私はこれまで霊長類の神経科学研究に触れた経験はあまりありませんでしたが、今回のコースで学んだことが今後私が研究を開始する際には大きな助けとなると確信しております。また本稿には書ききれませんでしたが、日本各地から集まった様々なバックグラウンドを有する他のトレーニングコース受講者と知り合いになれることも大きな魅力の一つです。私が本年のトレーニングコースに参加できたことは私にとって大きな幸運であり、本トレーニングコースに関わった全ての方にお礼申し上げたいと思います。

(慶應義塾大学 水口智仁さん)

ヒトのfMRI基礎実習

私は所属する大学院で、成人を対象に食物選択における報酬価値判断と意思決定について研究しております。これまでの研究では、食物選択の傾向と脳波を用いた神経活動の変化の関連に着目して研究を進めていました。しかし、脳波は時間分解能には長けているのですが、空間分解能に関してはfMRIの方が何十倍も長けています。私は今後の研究においてfMRIを用いて脳内の空間的な観点からも自分のテーマを掘り下げたいと考えたため、fMRIコースに応募しました。

一日目はfMRIで脳の撮像を行いました。最初に大まかに装置全体を見て回ることができました。次に受講者が被験者となり、成功報酬が用意された状況で行うStop Watch課題時の脳活動を測定しました。きめ細やかな頭部の固定や想像以上に大きな装置の騒音など教科書で読むだけではわからないことをたくさん経験できました。やはりfMRIも夢の機械ではなく、メリットもあればデメリットもあります。それらを身を以て感じられたことで、自分が実験者になった時の被験者の方に対する配慮に対する大きなモチベーションになったと思います。

二日目はまず松元先生より脳機能マップについて、松田先生より脳機能計測装置の原理について講義を受けた後、fMRIの初日に撮像した脳画像のデータ解析について教わりました。ソフトウェア(MATLAB SPM12)を用いて、個人のデータを事前処理し、課題に関わる脳部位の賦活マップを作成しました。結果としては、報酬処理に関わる線条体等の活動が強く見られ、自分の脳が論文で見たように活動するのを見て興奮しました。
夜は他のコースの受講者の方と交流しながら1つのテーマについて議論するJam Sessionがありました。様々な研究背景を持つ方達と議論することはとても刺激的で、様々な角度からの意見を1つの結論にまとめ上げることの難しさを感じました。

最終日の午前は、前日の解析結果をもとにいよいよ2ndレベル(集団)の解析を行いました。集団解析においても個人解析と同じような結果が得られ、結果を正しく解釈するための統計的な知識について丁寧に説明していただきました。
午後は修了式と全コース参加者を交えた昼食会があり、3日間一緒に勉強した仲間と達成感を分かち合い、自分たちの研究について意見を交換する貴重な時間帯でした。

私たちfMRIコースに参加した受講者は研究テーマこそバラバラでしたが、皆一様に今回のトレーニングコースに満足しているように見えました。これも貴重な研究時間を割いて御指導下さいました松元先生、松田先生、スタッフ・大学院生の方々、また玉川大学脳科学研究所の関係者の皆様のおかげだと感じています。心より御礼申し上げます。

(京都大学 美馬翔希さん)

乳幼児の行動計測とその解析

私は今回、玉川大学脳科学トレーニングコースの乳幼児に参加させていただきました。

初日は、脳波計測の基礎に関するレクチャーを受けた後、人形を用いて電極を付ける練習を行いました。頭囲計測、電極付けの練習には首の座らない新生児の人形を使用しましたが、頭蓋骨が柔らかく、首が座らないというだけで、成人とは違う緊張感がありました。ノイズの混入が少ないデータを取るための環境設定や事前準備の重要さについて、実際のシールドルームでの工夫を見せて頂きつつ学びました。

二日目は3名の8か月児にご協力いただき、睡眠時の脳波計測をさせて実際に体験しました。電極の装着は入眠後にやっと始まります。寝ている協力者を邪魔しないよう、素早く正確に行わなくてはいけません。実験に関わる段取りを、ご協力いただく保護者と乳幼児のペースを乱さないように行うことの重要性と、事前準備の大切さを感じました。細やかな工夫と技術は論文の方法に記載されていることではないため、実際に佐治先生の実験を間近で見ることが出来たことは大変貴重な機会でした。

最終日は視線計測についてTobiiの最新型のモデルを実際に体験させていただきました。

お忙しいなかご指導くださいました、佐治量哉先生、岡田浩之先生、梶川祥世先生、岩田恵子先生と、調査にご協力くださいました保護者さま、赤ちゃんに感謝いたします。ありがとうございました。

(北海道大学 岩田みちるさん)

社会科学実験入門

私は、「物質から人工生命を合成して進化させる」という研究をしています.脳科学とも社会科学ともほぼ無関係です。しかし、新しい価値観というのは、そんな僅かな重なりを押し広げる過程で生まれるのだと考え、参加致しました。他の参加者も、運動生理学、児童文学、デザイン心理学など、これを逃せば接する機会の無いような専門をお持ちでした。

初日
まずは、講義室で、モラルバーゲンハンターという印象的な名前の仮説の研究について聞きました。利己主義者がつい利他的に行動してしまう状況を、精緻に検証していく過程に迫力を感じました。次は、子どもに焦点を当てた研究の紹介です。私たちはいつから他人のために身を削るの?私たちはいつから周囲の目を気にするの?そんな大切な問題を紐解く知見だけでなく、児童を対象とする上での、論文には書かれないような注意点・苦労話について教わりました。その後、実験室に移動して、実験者側・参加者側の両方の立場で経済ゲーム実験を体験。有効な社会場面を実験室内に作り上げる鉄則や、意外なトラブルを避ける秘訣について伝授いただきました。

二日目
朝から、「社会科学と遺伝子」、「社会科学と脳」について講義を受けました。遺伝子、脳、行動の流れはひょっとしたら社会科学のセントラルドグマになってゆくのではないでしょうか。これまでの心理学の積み重ねに、この取り組みがこれから強い理論と説明を与えていくのだと思うと、心躍るようです。お弁当の後は、PythonとoTreeを用いた公共財ゲームの作成です。私のような初学者でも、ものの数時間で完成しました。これなら、自宅で独りでも気軽に経済ゲームをつくれます。

最終日
先月出版されたばかりの社会神経科学の研究について高岸先生より教わりました。やはり、世の中には二種類の人間がいるのです。では、元々はどちらなのでしょう?性善説か?性悪説か?遺伝子と脳の流れから明かされる今後の展開を考えると胸が高鳴ります。今のところは、私たちが利他性を美しく感じることこそが、利他性の恩恵を受けて進化した名残かもしれんな、と思いながら最後のお弁当をいただきました。

最先端の研究内容を著者から直接、少人数で講義を受ける機会はたいへん貴重です。私は講義の途中で粗野な疑問を幾度もぶつけてしまいましたが、スタッフの皆様はいつも優しく丁寧に答えてくださいました。高岸治人先生と研究員および大学院生の皆様、お忙しい中三日間に渡りご指導賜りありがとうございました。心より御礼申し上げます。

(大阪大学 酒谷佳寛さん)

Jam Session ~分野を越えて思考の調和を奏でよう~

私は普段、成人を対象に脳波を用いて脳情報計測と解析を行っています。この度の玉川大学脳科学トレーニングコースでは「乳幼児の行動計測とその解析」コースに参加させていただき、5ヶ月児の睡眠時脳波計測の体験や社会科学実験についての学びを通して、成人とは異なる乳幼児研究の大変さ、そして意義を身をもって知ることができました。

3日間のコース期間中、私たち参加者は基本的にコースごとの実習に参加しましたが、1日目の夜には懇親会、2日目の夜にはJam Sessionが開催され、コースの垣根を越えての交流活動も非常に充実していたと感じました。Jam Sessionにおいては、全コース参加者が4グループに分けられ、自分のバックグラウンドの知識を持ち寄りながら出題テーマについて3時間程度議論を行ったのち、プレゼンテーション発表と意見交換を行いました。今回のテーマは「システムが自身を観測できている状態とはどのような状態にあるか、また観測範囲はどのように決定されるのか」という、”意識”と”自己観測性”に関するものでした。
最初にこのテーマを耳にしたときは、何が問われているのかをうまく掴めなかったのですが、バックグラウンドの異なるグループのメンバーと議論を重ねていくうちに徐々に話し合いが深まっていきました。一般的に、マシンであるHDDには意識がないと考えられているのではないでしょうか。しかし、容量が一杯になったらこれ以上データを追加することはできないとリアクションを返すのは、自己を認識しているからではないか、ではこれも自己観測できているシステムになり得るのか、というような議論がなされ、今までの自分の考え方を見つめ直す契機となりました。また、グループ内での議論や意見交換において、言葉の認識や定義の違いにも気づかされました。例えば、分子生物学を学ぶ人が”システム”を細胞などミクロなものとして捉えていた一方で、社会学を学ぶ人は社会集団というマクロなものと認識していました。他にも、”意識”には自分や周囲の状況を自分で認識するという意味だけでなく、医学においては”覚醒”という意味があるということに気づかされました。

今回のJam Sessionを通して、意識のメカニズムがまだまだ未解明であることを実感し、これが解明されなければ人間らしい考え方をする人工知能なども生まれないだろうというふうに思いました。そして、問いに対する答え以上に、話し合いのプロセスにおいて得る学びや気づきが多く、非常に充実した時間を過ごすことができました。最後になりましたが、様々な方向から脳にアプローチする学生や研究者の交流の場を設けてくださった講師の皆様及びスタッフの方々に、改めてお礼を申し上げます。

(慶應義塾大学 鍋澤 歩さん)

シェアする