玉川大学脳科学トレーニングコース2018が開催されました
2018年6月14日(木)から6月16日(土)の3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2018」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。
第8回目となる今回のトレーニングコースでは、5つの実習コースに全国から計99名の応募があり、書類選考で選ばれた25名の方が受講されました。
実習コース
1.ラットのマルチニューロン記録と解析法コース(受講4名)
担当:礒村宜和、佐村俊和(山口大学)
2.霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術コース(受講6名)
担当:鮫島和行、坂上雅道、小松英彦、小口峰樹、柛代真里
3.ヒトのfMRI基礎実習コース(受講6名)
担当:松元健二、松田哲也、飯島和樹
4.乳幼児の脳波計測と行動観察(受講4名)
担当:佐治量哉、岩田恵子、梶川祥世、佐藤由紀
5.社会科学実験入門コース(受講5名)
担当:高岸治人、金成慧
共通カリキュラム
開会式・懇親会(1日目)
Jam Session ~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)
担当:酒井裕
ランチ交流会(3日目)
閉会式(3日目)
受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。
- 主催玉川大学脳科学研究所
- 共催玉川大学大学院脳科学研究科
玉川大学大学院工学研究科
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築
文部科学省科学研究費補助金
「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構」
「認知的インタラクションデザイン学」 - 協賛尾崎理化株式会社
小原医科産業株式会社
株式会社フィジオテック
バイオリサーチセンター株式会社
マスワークス合同会社
室町機械株式会社
受講者の声
ラットのマルチニューロン記録と解析法
私は、普段マイクロダイアリシス法を用いてマウスの神経伝達物質の経時的変化を見ています。今後はウイルスインジェクションや微小カメラを用いて研究を進めたいと考えており、今回「ラットのマルチニューロン記録と解析法」に応募いたしました。トレーニングコースでは3日間で礒村研究室での研究のベースとなる実験の流れを教えて頂きました。
1日目午後に手術を見学させて頂きました。顕微鏡で実験者が見ている視界をモニターに映して頂き、とてもわかりやすくラットの手術の際の方法・注意点を知ることができました。その後は礒村先生から、礒村研究室での実験技法の原理を教わりました。私は電気生理の実験は行ったことがなかったので自分の予習不足を後悔しましたが、礒村先生に丁寧に楽しく講義して頂き、学び多い時間でした。
2日目午前にウイルスインジェクションを見せて頂きました。実験操作、使用する器具のセットの仕方などを丁寧に教わりました。手術法・ウイルス挿入法共に1つ1つの手順にどんな工夫があり、どんな意味を持っているのかと操作の根拠まで教えて頂きとてもわかりやすかったとともに、礒村研究室の研究員の皆さんの実験動物に対する配慮と研究に対する熱心さにとても刺激を受けました。また、自分の研究室以外での手術法・挿入法を詳細に見る機会は今回が初めてだった為、自分が行なっている方法を見直すきっかけにもなりました。また、ラットの馴化法・神経路がわかりやすく染色された脳切片も見せていただきました。ラットの馴化はラットの性質を利用し人に馴化させており、その方法はとても為になりました。2日目午後は、実際にラットを頭部固定し多点電極を脳内に挿入してタスクをしている最中の記録をする方法を見せていただきました。なかなか見つけられないアンチドロミックという現象を探して見せて頂いたり電気生理で大切なアースのとり方など実際にやってみると苦労する点を細かく教わったりと勉強になりました。
3日目は、実験データの解析方法を実際のツールで手動スパイクソーティングを行いながらその操作方法を佐村先生に丁寧に教わりました。波形の形を見ながらノイズを除外したりとその判断が難しいと感じましたが、素人にもスパイクソーティングができるツールのすごさを実感しました。
1日目の懇親会・2日目のjam sessionでは様々な分野・経歴を持った人と意見を交わし、楽しく、刺激的な内容でした。この3日間貴重な経験を通し感じたこと・学んだこと、築いた関係をしっかりと今後に生かしたいと心から思いました。最後になりましたが、礒村教授、佐村准教授をはじめ、礒村研究室の研究員の皆様にはわかりやすく説明して頂いたこと、質問に丁寧に答え、研究におけるノウハウや知識を惜しみなく共有して頂いたこと大変感謝をしています。お忙しい中でこのような機会を設けてくださった脳科学研究所の関係者皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
(上智大学大学院 池川夏実さん)
霊長類の行動・神経の計測・操作とモデルベース解析技術
私は鳥類の大脳の機能について行動と免疫組織化学と組み合わせた研究を行っています。大脳の機能を調べる上で霊長類を対象にした研究は非常に有用性が高く、かつ多くの神経科学的知見が得られているため、実際に霊長類を用いて研究している現場に触れ、より理解を深めたいと思い霊長類コースを選びました。
初日は開会式のち、最初に鮫島先生より霊長類研究の有用性や実際に実験の際の流れ、手術を行う環境についての講義をしていただきました。霊長類の神経計測を行う上で論文や参考書には載っていないような部分についても丁寧に解説して頂きました。その後、神代先生の指導の元、マカクザルの飼育施設や実際の行動実験の場面を見学しました。最後に小松先生よりマカクザルの脳標本と視覚野の脳切片を観察する実習を行いました。皮質の各層の機能や領域が異なると細胞構築も大きく異なることが印象的でした。
二日目は、午前に坂上先生より眼球運動の基礎と計測や、ECoGを用いた研究と解析についての講義をして頂きました。眼球運動の基礎から制御を行う回路、意思決定に関与する神経システムまで大変丁寧に解説して頂きました。またマカクザルのカルシウムイメージングの場面も見学しました。午後は小口先生より神経回路の選択的操作を行う技術について、とくにケモジェネティクスについての講義をして頂きました。さらに実際にマカクザルの脳に電極を入れて神経細胞の電気活動を取得する現場を拝見させて頂きました。
三日目は鮫島先生より強化学習理論を用いたモデルベースの解析と、モデルベース解析を用いた研究の講義をして頂きました。その後、実際に自分自身のデータを取得し、解析する実習を行うことで、モデルベース解析で明らかになることについてイメージを掴むことができました。
三日間非常に濃密な時間を過ごし、他では得られない貴重な経験を得ることができました。実際に霊長類研究の現場に触れたことは、これから自分の研究を行う上でも大いに参考になります。最後に、お忙しい中時間を割いて指導を頂いた先生方、大学院生方、スタッフ方に深くお礼を申し上げます。
(慶應義塾大学 盛田一孝さん)
ヒトのfMRI基礎実習
私は思春期における感情制御をテーマに、心理尺度や認知課題を用いた研究を行っています。かねてより感情についてより深い視座をもつため、ニューロイメージングの知見を活用できるようになりたいという思いがあり、この度「ヒトのfMRI基礎実習コース」を志望しました。
1日目は、自ら課題の参加者となり、fMRI実験の流れを体験しました。題材は、アンダーマイニング効果を実証したStop Watch課題でしたが、今回は外的(金銭)報酬による動機づけの高まりを観察することが目的です。fMRIの知識を得る前に実際に装置に入り、少々窮屈ともいえる感覚を直に体験し、参加者に配慮した説明のしかたや施行デザインを練る重要性を学びました。
2日目は、いよいよ個人解析です。解析に先立ち、松元先生は、様々な動物の脳の比較を出発点としてヒトの脳解剖学概論を、松田先生は、初学者にもわかりやすい図を豊富に交えてfMRIの原理をご講義くださいました。解析に入ると、SPMの操作を教わりながら、体動の修正や撮影時差の補正など、地道な前処理を行う時間が続きます。全ての処理を終えて表示された賦活マップを見たときは達成感に溢れ、真っ赤に示された自分の小脳を見て、秒数を意識しすぎたのか(時間知覚)、装置内で緊張が取れなかったのか(筋緊張)などと、解釈を巡らせました。
3日目は、集団解析を行い、報酬系に関わる線条体の賦活を確認できました。人数が増すことで一定の傾向が認められ、神経科学の理論と一致したことが大変興味深かったです。結果を妥当に解釈するための知識や、仮説検証をめざした課題作成のコツなど、さらに学びたい点が出てきました。私は日頃心理支援を行う中で、人間にはあまりにも個別的な要素が多く、ヒトの脳に再現性を求めることに限界を感じることがあります。しかし、神経科学に加え、参加者各々の専門である数理的、哲学的な観点から語られる「脳の解明」への道筋はとても刺激的で、視野が広がりました。
今振り返ると、「脳」という未知数の対象に対して自分のスタンスをぶつけてみることがトレーニングコースの醍醐味だったと感じます。懇親会やJam Sessionでは、「協働してこそできることがある」という先生方のメッセージを感じ、まず自分の強みといえるテーマやスキルを磨きたいと気持ちを新たにしました。貴重な学術資源を提供して、濃い学びの場をつくってくださった先生方、大学院生・スタッフの皆様に、心より御礼申し上げます。
(東京大学 北原祐理さん)
乳幼児の行動計測とその解析
私は今回、玉川大学脳科学トレーニングの乳幼児コースを受講させて頂きました。
1日目は乳児の脳波を計測し、実験する際の手続きや注意事項等を学びました。特に脳波を調べる際にノイズが入ってしまわないようにするために実験室の環境の整備や確認が大切であることが分かりました。1日目は実際に実験を行うシールドルームや脳波の測定室を拝見させて頂き、雰囲気を感じ取ることができました。実習では人形を用いて乳児の頭位計測や電極を貼り付ける位置を確認する方法を学びました。頭に電極を貼り付ける際にズレてしまうなど脳波計測の難しさを体験することができました。後半は母親が乳児に絵本を読み聞かせる際の行動分析やジャスチャーの分析を体験しました。
2日目は実際に実験協力者の乳児の脳波を計測する実習を行いました。私たちは乳児の頭位を計らせていただきました。母親に抱っこしていただきながらの計測ではありましたが、かなり動くため、計測が非常に難しく感じられました。乳児にストレスを感じさせないよう、スピードと正確性が重要であると感じました。また、佐治先生の寝かしつける、電極を付ける、脳波をみるという実験の様子を拝見させていただきました。乳児によって寝かしつけられず実験が進行できなくなることが多いことを知り、脳波実験の難しさや奥深さを肌で感じ取ることができました。
3日目は1日目の絵本の読み聞かせの様子、母親が乳児に歌を歌っている際の乳児と母親の心拍を図る実験方法を学ばせていただきました。乳児が落ち着かない時や、絵本や母親の歌声に反応する時の心拍の動きを見ることができました。
お忙しい中、ご指導くださった先生方、お手伝いしてくださった大学院生の皆様、および実験に協力くださった保護者の皆様や赤ちゃんに感謝申し上げます。
3日間どうもありがとうございました。
(宮城教育大学 郷家史芸さん)
社会科学実験入門
私は、感情制御における他者の影響を検討しています。今回は、社会科学実験により測定される社会性や利他性を自身の研究に繋げるため、そして生理指標を利用する方法を身に着けるために、トレーニングコースに参加しました。
【1日目】
金成先生より「瞳孔」に関する説明を受け、瞳孔の大きさの変化と社会性の間に結びつきがあることをご教示いただきました。その後、私たち自身が実験参加者となり、瞳孔を測定しながら、社会科学実験に取り組みました。そこで得られた瞳孔データを各自解析することで、瞳孔という生理指標を様々な心理学実験で利用していく方法について学ぶことができました。
【2日目】
「oTree」を用いて、公共財ゲームという社会科学実験のプログラムの作成を行いました。公共財ゲームは参加者間で相互作用が行われるため、作成が困難かと思っていたのですが,oTreeの簡易さ、そして先生方による丁寧なご説明もあり、プログラミングに不慣れな私でも課題を作りあげることができました。またoTreeを用いて行った研究の苦労話も伺うこともでき、研究実践に役立つ知識も身に着けることができました。
【3日目】
高岸先生より「公共財ゲーム」などにより測定される社会性や利他性と脳活動、そして遺伝子との関連について、講義を受けました。その後、実際に公共財ゲームを体験させていただく中で、これまでに積み上げられた社会科学実験に関する貴重なノウハウについてもお話しいただきました。私自身の専門は社会科学ではないのですが、教えていただいたノウハウは自身の研究においても、とても有用だなと感じました。
先生方からお教えいただいた社会科学に関する知見はとても面白いもので、自分も社会科学実験をやってみたいと思わされるものでした。また、3日間のトレーニングコースの中で、社会科学を軸として、生理指標、プログラミング、実験ノウハウといった濃密な内容を教わることができました。
最後になりましたが、お忙しい中、お時間を割いてくださった先生方、大学院生のみなさまに深く感謝いたします。3日間ありがとうございました。
(広島大学 小林亮太さん)
Jam Session ~分野を越えて思考の調和を奏でよう~
私は今回の脳科学トレーニングコース2018では「社会科学実験入門」コースに参加させていただき、コース中では経済ゲーム実験中の瞳孔の大きさの測定や、oTreeを用いた経済ゲーム実験のプログラム作成について学ばせていただきました。
3日間のトレーニングコースは各人が参加したコースにおける実習内容を中心として進みましたが、1日目と2日目の夜にはコースの垣根を越えたトレーニングコース参加者全体での交流が行われる催しが開かれました。1日目の夜は懇親会、2日目の夜はJam Sessionが行われました。Jam Sessionは様々な背景を持つ受講生たちが4つに分けられ、各グループで1つのテーマについて議論し、その結論を発表する催しです。今回与えられたテーマは「脳を理解するためには何をすればいいのか」というものでした。ある研究では現在の神経科学の分析手法と対応するような工学的手法を単純なゲーム実行中のプロセッサに行い、その結果、神経科学の分析手法では、脳に比べると単純なプロセッサの原理を知ることもできないという結論を出しました。Jam Sessionではこの研究をもとに「脳を理解するためには何をすればいいのか」というテーマについて議論を進めました。
全てのグループが異なる背景を持つ学生や研究者から構成されていて、私の参加していたグループも工学、医学、心理学、教育学など多様な専攻を持つ方々がいらっしゃいました。議論の中ではそもそも何を理解すれば機械や脳を理解したといえるのかという根本的な疑問に対して、それぞれの専門の知見に基づく意見も含め、数多くの言葉を交わしました。議論の結論は何とか時間内にプレゼンにまとめられ、各グループが順番に発表していきました。各グループのプレゼンには様々なことを考えさせられましたが、プレゼン後に行われる質疑応答での先生や受講生から飛ぶ鋭い質問からも多くを学ばせていただきました。
このJam Sessionを通して、背景の異なる人同士では考え方や問題のアプローチ方法も異なり、それらを短い時間でまとめるのは少々大変ですが、刺激的な試みであるということを実感いたしました。また、脳を研究する、理解するということについて考えを深めたり、他の学生や研究者の方々と交流したりする良い機会となりました。
最後になりますが、このような学びと交流の場を設けて下さった先生方及び関係者の皆様に感謝を申し上げます。
(国際基督教大学 岡田昌樹さん)