「第62回日本学生科学賞」東京都大会で、玉川学園の9年生が最優秀賞。11年生が優秀賞、合計9人の生徒が入賞するという輝かしい成果を収めました。
2018年10月27日、「第62回日本学生科学賞(読売新聞社主催)」東京都大会の表彰式が行われ、中学の部、高校の部において、玉川学園9~12年生の研究、計9点が入賞するという快挙を果たしました。
未来の優秀な科学者育成のために、創設された日本学生科学賞。毎年、玉川学園サイエンスクラブの活動の一環として、都大会への応募を行っています。今年度から選択授業 SSH リサーチ科学と自由研究の物理班、化学班、サンゴ部も参加しました。
今回、中学の部では、9年生の平野悠さんの研究が、昨年に続いて2度目の最優秀賞に選ばれました。同じく中学の部で、9年生の歌川喜矢さん、浅倉ゆいさんが奨励賞を受賞しました。
また高校の部では、飯尾一斗さん、齋藤碧さんが優秀賞に選ばれ、宮川優生さん、荒井碧さん、花村佳緒さん、坂下万優架さんが奨励賞という結果に輝きました。
読売新聞東京本社ビル内にある「よみうり大手町小ホール」で行われた表彰式の様子とともに、入賞したみなさんの研究成果を紹介いたします。
第62回 日本学生科学賞 東京都大会
中学生の部
高校生の部
- 優秀賞:11年木曽組 飯尾一斗さん「衝突球と接触」
- 優秀賞:11年木曽組 齋藤碧さん「造礁サンゴの白化メカニズム」
- 奨励賞:12年苗場組 宮川優生さん「ビタミンC定量の問題点」
- 奨励賞:11年天城組 荒井碧さん「大気浮遊物質による温暖化抑制」
- 奨励賞:11年天城組 花村佳緒さん「アントシアニンの変色原因を探る」
- 奨励賞:11年鈴鹿組 坂下万優架さん「波力発電の効率化を目指す研究」
中学生の部
最優秀賞:9年 平野悠さん
レタスの茎はなぜ赤くなるのか?
昨年は「バナナの果皮の変色」について取り組み、今年は「レタスの茎が赤く変色すること」に着目して研究を行いました。ポリフェノールが酸化し茶色く変色するバナナやリンゴに対し、赤く変色するレタスでは異なる仕組みが起きているのではないかと考え実験に取り組みました。研究は、大きく3つのプロセスで行いました。一つ目に、レタスの変色部位や変色しやすくなる条件について観察し、次に、レタスにポリフェノールやポリフェノール酸化酵素が含まれているかを調べ、最後にレタスを切る際に出る白い液体とポリフェノールの反応について検証しました。
結果、レタス内の成分にはポリフェノールが含まれ、その成分量は、茎よりも葉に多いことが判明しました。また、茎からでる白い液体にはポリフェノール酸化酵素が含まれ、カコテールというポリフェノールの一種を使った実験では、赤く変色する現象も確認することができました。このことから、茎を切ると白い液体が茎全体へと染み出し、レタスのポリフェノールが、空気中の酸素とポリフェノール酸化酵素に触れて変色するという結論に達しました。
これらの研究を通じて、食物の変色原因の追究は、植物の成分や自己防衛システムの解明にもつながり、自然界の仕組みの理解を深める研究につながっていくのではないかと考えています。
奨励賞:9年 歌川喜矢さん
スピーカーと音波の振動の関係:コンデンサーマイクの出力と音波の関係から
私は吹奏楽部での活動内容から、音波の研究に興味関心があります。最近、国立大学の入試問題で、音波に関する出題が話題となり、そこでマイクを使って音波を可視化する研究に取り組みました。実験では、スピーカーから出る音波の小さな変化を測定する機器が無かったため、マイクを使った音波測定と併せて、スピーカーの振動を別々に調べることで、マイクと音波、スピーカーと音波の振動の関係をそれぞれ明らかにしていきました。
結果、スピーカーの電磁力による動きは、低い振動数と高い振動数では逆になり、高い振動数では中心部と周辺部の振動にずれが見られました。またマイクの出力は、圧力変化や変化の割合にも比例せず、圧力の振動から4分の1周期遅れるという結果が確認できました。これらのことから、コンデンサーマイクの出力は、圧力変化に反応しているが、圧力変化のタイミングではなく空気の振動と同じ振動になることが分かりました。この結果を利用することで、スピーカーの振動と発生した音波の空気の振動も一致していることが分かりました。
以上のことから、1000Hzぐらいまでは、マイクの出力を見ることは、音波の空気振動を見ている現象と同じになるという答えにたどり着きました。今後は、吹奏楽部の同じパートの楽器の音を同時に測定して、どこまで位相がずれると合奏に影響が及ぼされるのか、また弦楽器の振動と音波の関係も見たいと考えています。
奨励賞:9年 浅倉ゆいさん
球の転がり摩擦力と速度の関係
私は、卒業した先輩が行った、『ころがり摩擦⼒と速度との関係について』の仮説検証と、運動エネルギーの減少を実験によって考察するという2つの目的で研究に取り組みました。先輩の仮説では、レールのつなぎ目による球のジャンプが速度に関係するとあったため、力学的エネルギー実験装置に、つなぎ目のない長いレールを用いた検証に取り組みました。
その結果、つなぎ目のないレールを用いても、速度上昇によって運動エネルギーの損失が大きくなり、再実験の結果でも、転がり摩擦係数は、速度が増すにつれて⼤きくなることが分かりました。またレールを平面にした実験でも同様の結果となりました。今回の実験から、転がり摩擦係数が速度とともに増加する原因は、特定できませんでしたが、つなぎ目やレール以外の要因が関係していることが分かりました。また、転がり摩擦係数は、球の⼤⼩に関係ないと考えられ、⾼速域では⼆次関数のように急に増加することも分かりました。
英⽂の先⾏研究では、『鉄球は⼀定の速度を超えると、転がり摩擦係数が減少する傾向にある』と提示されているため、さらに速い速度の実験を行い、摩擦係数が減少する現象を明らかにしたいと考えています。
高校生の部
優秀賞:11年 飯尾一斗さん
衝突球と接触
私は、先輩たちが取り組んだスーパーボールと金属球の衝突実験に興味をもち、衝突球の不思議な動きと、衝突球の球同士が接触しているかを、明らかにすることを目的に研究しました。この実験では、衝突球の衝突は、動画でも解析ができない変化のため、先行研究を参考にオシロスコープを使って電気接触の測定を行いました。その際、球を細い銅線でつなぎ、その抵抗による電圧状態から、衝突した瞬間の接触状態の変化を調べられるように工夫しました。
その結果、衝突球は衝突した瞬間から、すべての球が接触した状態が続き、その後、衝突した側の球から順に離れていくことが分かりました。したがって、球同士の隙間がある衝突球と隙間がない衝突球とでは、一見同じ動きに見えるが異なる運動をしていることも分かりました。これらの結果から、衝突球は同じ材質なら隙間のある無しに関わらず、一見同じ動きに見えるが実際の動きは異なること、そして材質の違いが球の縮み時間にも関係し、さらに動きが変化するということが分かりました。
今後は、足靴床など三つ以上の物体が同時に衝突するときこの考え方が使え、スーパーボールと金属球が衝突したときの接触時間を調べることで金属球間に隙間が広がらなかった原因が明確にできると考えています。新たな疑問点として、中間の金属球を横から固定しても先へ伝わっていくか調べていきます。
優秀賞:11年 齋藤碧さん
造礁サンゴの白化メカニズム
生態系の維持に重要な役割を果たすサンゴ礁の白化現象が問題となり、それらの様々な研究が行われています。しかし、サンゴと深い共生関係にある共生藻に着目した研究は少なく、さらに菌類と共生藻の関係はほとんど解明されていません。そこで、サンゴ、共生藻、菌類の三者を追究する実験に取り組みました。
実験は、多角的にサンゴ、共生藻、菌類の共生関係を探ることを目的に計画しました。行った方法は、①寒天上に培養した藻類コロニーの大きさと色の濃淡から増殖度合を計測、②液体培養を行い血球計算盤での増殖度合の計測、③分光光度計を用いた吸光度から菌類の増殖度合を計測、そして④イソギンチャク飼育水へ菌の培養液を加えての経過観察などを行いました。実験の結果、ある種のバクテリアの存在が、共生藻の増殖に大きな負の影響を与え、そして高温・低温環境下では、共生藻の増殖率が急激に悪化することが分かりました。また、バクテリアは高温時に、活性が上がるという現象も実験で確認できました。
一般に、サンゴの白化現象の最大要因は高水温であると言われていますが、これらの結果から、高い水温によって共生藻が影響を受け、さらにバクテリアの活性によりサンゴの白化を加速している可能性が示唆されました。近年、白化現象が過去にない規模・頻度で発生しています。今年は国際サンゴ礁年にも設定され、サンゴ保全の気運がますます高まっています。今回の研究で、サンゴ白化メカニズムの側面を捉えることができ、さらにこの結果を応用し白化現象を止める保全策へとつなげていきたいと考えています。
奨励賞:12年 宮川優生さん
ビタミンC定量の問題点
私は、人の体の中で大きな効果を発揮する「ビタミンC」に興味をもち、食品中のビタミンCの定量をヨウ素法という手法で実験を試みたところ、滴定の終点が定めにくいという問題が生じました。そのため、その原因を追究する実験に取り組みました。実験過程では、①空気中の気体や食品をすり潰した際に出る細かな粒子が原因かどうかの検証。②どのような食品でも、この現象が起こるかを検証。③抗酸化物質であるポリフェノールを使用した検証。④アスコルビン酸溶液にカテコールを溶かしてヨウ素溶液で滴定を行い、食品を滴定した際と同じ現象が起こるか、4つの検証を行いました。
結果、空気中の気体や食品をすり潰した際に出る細かな粒子が原因ではないこと。トマト、ミカン、ブロッコリー、お茶、キウイ、リンゴ、柿など多くの食品で同様の現象が起こることが分かりました。そこで、これらの食品に共通して含まれる抗酸化物質が原因と考え検証した結果、抗酸化物質(ポリフェノール)が、ヨウ素デンプン反応呈色後のヨウ素と反応し問題を引き起こしていることが確認されました。
このように、ポリフェノール・カロテノイド・ビタミンEのような抗酸化物質を含む食品中に含まれるビタミンCを、ヨウ素法で定量すると、抗酸化物質がヨウ素と反応し、滴定の終点での呈色が明確にならないことが分かりました。したがって、抗酸化物質が含まれる場合のビタミンCの定量には誤差が生じる可能性があり、注意が必要であることが分かりました。
今後は、食品に抗酸化物質が共存するときの対策を検討し、より簡単で正確にビタミンCを定量できる方法を提案していきたいと考えています。
奨励賞:11年 荒井碧さん
大気浮遊物質による温暖化抑制
私は、地球環境や今後の⼈類発展へつながる研究を行いたいと考え、太陽光スペクトルと微粒⼦に着⽬し、『環境に害が少ない寒冷化の原因となる物質を探す』取り組みを行いました。
実験は、2つの分光器を⽤いて、正確なデータを得るまで実験装置の改良を施し、太陽光スペクトルの測定を行いました。次に測定したデータをグラフ化し、これらを⽐較し微粒⼦や気体がおよぼす影響を調べ考察しました。最後に、実験容器内に薄⼒粉を投入し、薄⼒粉がおよぼす太陽光スペクトルの影響を調べました。
その結果、①実験容器⾃体がおよぼす太陽光スペクトルへの影響を示しました。②実験容器の太陽光スペクトルへの影響を差し引くことで、薄⼒粉は太陽光スペクトルへの影響をおよぼすことが分かりました。③線⾹の煙と薄⼒粉のデータを⽐較し、粒径の⼤きい薄⼒粉のおよぼす影響が⼤きいということが分かりました。
結論として、①・②により実験容器の影響を考慮し、薄⼒粉が約21%太陽光のパワーを抑える効果を有しているとことが分かりました。③この実験装置の容器内に異なる粒⼦を⼊れ、太陽光スペクトルの強度変化を観ることでどちらの粒⼦が⼤きいものかを判別できることが分かりました。
今後は、⾝近な微粒⼦まで研究対象の範囲を広げ、太陽光スペクトルに影響をおよぼし、寒冷化効果を持ち環境に無害な微粒⼦を⾒つけ出すことをめざしていきます。安全で寒冷化効果のある物質が判明すれば、現在の環境問題への一つの対策となり、今後の⼈類発展へ貢献できると考えています。
奨励賞:11年 花村佳緒さん
アントシアニンの変色原因を探る
アントシアニンは、溶液のpHを変化させると構造が変わり、色が変化します。また酸性の条件下では安定な構造に対し、塩基性条件下の構造は不安定で退色しやすいといわれています。紫キャベツの抽出液を塩基性条件下で放置すると、数分から数日のうちに緑色から黄色へと変色することに気づき、なぜこのような現象が起こるか、研究を始めました。
実験は、一つ目に、アントシアニンの色はどのように変化するのかを、pHや時間を変えて分光光度計を用いて測定しました。二つ目に、どのような条件の時に、塩基性条件下のアントシアニンの変色が起きやすいのかを検証しました。三つ目に、塩基性のアントシアニンが変色する原因を、酸化剤や薄層クロマトグラフィーで成分を分離して確かめました。結果、紫キャベツ液は、塩基性が強いほど短時間で緑色から黄色に変色しました。この原因は酸化ではないかと考え、緑色の紫キャベツ液に酸化剤を添加した結果、すぐに黄色に変色しました。また、紫キャベツに含まれるアントシアニンを薄層クロマトグラフィーで分離して塩基を添加したところ、無色化するアントシアニンと青色になるアントシアニンの2種類の存在を確認することに成功しました。青色になったものを数日放置すると黄色になることも確認できました。
多くの文献で塩基性のアントシアニンが不安定で退色しやすいといわれているものの、紫キャベツが塩基性条件下で緑色から黄色へ変色することや、その仕組みに触れているものは少ないのが現状です。今回の研究から、その仕組みについてより詳しい考察ができたのではないかと考えています。
奨励賞:11年 坂下万優架さん
波力発電の効率化を目指す研究
私は、東⽇本⼤震災をきっかけに原⼦⼒発電のリスクを知り、再⽣可能エネルギーに興味をもちました。しかし、再⽣可能エネルギーだけで電⼒をまかなうことが難しいことを知り、再⽣可能エネルギーの発電効率について研究したいと思い、波⼒発電の研究を始めました。
そこで実験は、振動⽔中型波⼒発電の原理を参考に、実験室レベルの発電装置で発電が可能であるか2種類の⽅法で検証実験を⾏いました。一つ目に、振動⽔中型の発電⽅法を⼤型のプラスチック容器などで再現する⽅法、二つ目に、⽔⾯に⽳をあけたプラスチック容器を押し込み、空気の流れを利⽤してタービンを回す⽅法です。結果、振動⽔中型波⼒発電の再現をした実験装置では発電に失敗しましたが、実験に改良を重ねた結果、プラスチック容器を押し込む形での実験装置で最⼤0.011mA、19.9mV、0.2189mWの発電ができ、⼀回の発電全体で0.9785mJの電⼒を発電可能である事が確認できました。
このように、実験装置の空気孔にペットボトルの先端部分を利⽤した実験装置では発電に成功し、使⽤していない実験装置では発電を確認できなかったことから、ペットボトルの先端の形状が今回の実験室レベルの波⼒発電の成功にかかわっていることが考えられました。今回発電が成功した実験⽅法は、完全に波⼒発電といえる⽅法では無いため、波⼒を利⽤した実験装置へと変えていく必要があります。また、波⼒発電はあまり研究が進んでいない分野のため、さらにこの研究をもとに実⽤的な波⼒発電につながる可能性を追究したいと考えています。
玉川学園は、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定も3期目を迎え、充実した取り組みとともにさまざまな成果をもたらしています。
生徒たちのこうした研究をさらにサポートし、発展させていきます。
今後も彼らの活躍にご期待ください!